2006年12月17日

ゴロンタロ・バジョ村にて

前にも書いたように、12月5〜12日はJICA-PKPMの現地国内研修・最終セミナーにオブザーバーとして参加するため、ゴロンタロを訪れた。

そのときの様子については、いりあい・よりあい・まなびあいネットワークのブログに書き込んだので、以下のアドレスを参照して欲しい。

http://i-i-net.seesaa.net/article/29807052.html

今回は、そのときに訪れたボアレモ県の様子を以下に紹介したい。

JICA-PKPMの現地国内研修は、ボアレモ(Boalemo)県の県都ティラムタ(Tilamuta)の小さな旅館で行われた。

研修中に、通りを大きな音を立てながら車やバイク、ベントール(バイク・ベチャ)を連ねた集団が何度も通り過ぎていく。少し前に行われたボアレモ県知事選挙の確定投票結果が数日前に発表され、前職が再選されたはずだったが、敗れた候補が選挙の不正を訴え、その圧力を受けたと思われる県選挙委員会委員長が確定投票結果に書いた自らの署名の撤回を表明する事態となった。集団はその署名撤回表明書のコピーを路上にばら撒いて、選挙の不正を訴えた。

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仮に確定選挙結果が正しければ、どう転んでも当該候補の逆転当選はありえない。前にも書いたが、ボアレモ県知事はなかなかのやり手で、世銀支援のトランスペアレンシー条例や住民参加条例を制定して、それを売り物に世銀などから援助を引き出している。立候補者は選挙に多額の資金を投入しており、当選者は職権を活用してしまえようが、落選者にはその回収が大きな負担になる。なかなか簡単に負けを認めたくない事情は理解できるのだが・・・。

旅館での研修の後、参加者とバジョ村を訪問した。参加者の一人、地元のNGOがこの村で活動している関係での訪問だ。名前の通り、住民のほとんどがバジョの人々で、かつて水上生活をしていた人々が徐々に陸地へ上がり始めている。周辺の村々からバジョということで蔑視され、援助の手が遅れてきた面がある。しかし、現在では、世銀や県政府などから7つの支援プロジェクトが入り、援助慣れが始まっている気配があった。

たまたま、マンゴー売りのトラックがやってきたので、近寄っていくと、一人のおばさんが「あんた、私のマンゴー買ってよ。キロ5000ルピアだからさ」と突然言われ、耳を疑った。えっ、私が買うの? すぐに言い返す。「それって誰のマンゴーですか?」「私のよ」と平然と答えるおばさん。このマンゴーもゴロンタロから商人が持ってきたものだった。「自分のお金で買いなよ」といっておばさんとの会話を打ち切る私。それにしても堂々とした要求だった。

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通りで出会ったおばあさんにもびっくりした。いきなり手を出して「お金ちょうだい!」。風貌は物乞いではなく、普通の住民の一人。木材の商いをしている人だという。周りのおばさんたちには要求せず、私にだけ、それも堂々と要求してくる。「どうして私なの? ここに知り合いがいっぱいいるんでしょ。私が悪い人だったらどうするんですか?」などといってお金は渡さなかったが、彼女も堂々としていた。

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バジョ村の人々は、魚と一部の農産物以外は、米、野菜、果物などほぼすべての食材を村外に頼っている。言ってみれば、生活するのに厳しいところ、と外部者には映るかもしれない。だから、貧困対策と銘打ったプロジェクトが何本も入ってきているのではないか。でも、バジョの人々は何年も前からこうした厳しい生活を続けてきて、コミュニティを維持させてきているはずだ。海の上で生活しているときには、何らかの形で必要な物資は手に入れていたはず。もしかしたら、陸に上がったために、必要な物資が逆に手に入り難くなったのだろうか。あるいは、これまで必要でなかったものが、陸で生活するにつれて必要になった、あるいは欲望が沸いてくるようになった、ということなのか。

日本でもそうだが、農村と漁村とでは、動くお金の量が全く異なる。船などの資金がかかるため、漁村のほうが1回の稼ぎが大きいが、支出額も大きくなる。水産物の値段がいいときには景気はいいが、それをことさら外部者に吹聴する必要はない。バジョ村はどうなのだろうか。

2004年10月の石油燃料価格値上げで、補償のための貧困世帯向け支援が活発化するのと軌を一にして、インドネシアの貧困人口は大幅に増加した。貧困といえば支援が受けられる。もらえるものはもらっておくのが常識。外部者との交わりによって、「貧困」というものを、良くも悪くも意識し始めたということなのか。あるいはよそ者には堂々と要求するのが昔から当たり前なのか。バジョの人々は、陸に上がって本当に前よりも幸せなのだろうか。

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